アニメーションの音を聴く vol.1 宮崎駿監督作品「風立ちぬ」
多くの効果音を人間の肉声を用いて表現し、この時代にあえてモノラルでの録音を行った『風立ちぬ』は、音響の面でも極めて面白い試みを行った作品です。新千歳空港国際アニメーション映画祭では、これまで、「爆音上映」等によって、アニメーションの音に注目してきました。『風立ちぬ』が描き出すのは、時代を疾風のように駆け抜ける二郎と菜穂子の人生の物語でしたが、本作は「音」こそが、この作品の持つ時代性と切実さを雄弁に語っています。本イベントでは、映画祭期間中に爆音上映等こだわりの音響設備を整えた劇場設備をフル活用し、本作の音響監督である笠松広司氏と制作を担当した古城 環氏のご協力のもと、作品の音をスタジオのクオリティに近づけるよう調整。お二人に音作りへのこだわりを語っていただいたうえで、制作陣の挑戦を再現した状態で本作品を上映し、「聴く」ことにより、この作品が現代の日本において持つ大きな意味を再び認識できるようになることを目指します。
ゲスト紹介
笠松広司(サウンドデザイン、ミキシングエンジニア)
音響効果会社デジタルサーカス所属。TV・映画・ラジオ・DVD等の音響効果の仕事を手がける一方、音楽のプロデュースや、人気バラエティ番組「めちゃ2イケてるッ!」(フジ系)の効果を手がけるなど、その活躍の場は広い。最近の参加作品は「思い出のマーニー」(’14)「キングスブレイブ ファイナルファンタジー15」(’16)など。
guest
古城 環(スタジオジブリ・ラインプロデューサー)
1976年生まれ 1993年にスタジオジブリ入社、撮影部に所属。その後アナログからデジタル制作への変換と共に、編集や音響制作に従事するようになり、「コクリコ坂から」以降の作品では制作現場全体の統括を担当している。「かぐや姫の物語」(’15)では、石上の中納言として声優も担当した。
作品紹介
彼は何のために飛行機を作ったのか?
これまで作られてきた戦争を題材にした映画の数々。
その主人公のほとんどは、国のために、愛する人のために戦った。
宮崎駿が5年振りに手掛けた「風立ちぬ」。主人公・堀越二郎は空に憧れる少年だった。やがて青年へと成長した二郎は、戦争へと突入する激動の時代の中、自分の夢のために生きようとする。
そんな、夢を追い続ける二郎の声に大抜擢されたのは庵野秀明。「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズの総監督としても知られているが、約30年前に「風の谷のナウシカ」の巨神兵の原画を担当し、宮崎からも深く信頼されている。
“滑舌がよい”“早口”“凛としている”そしてなによりも“いまを生きている”という宮崎自らの想いを受け、オーディションを経て主人公の声を担当することになった。
そして、音楽は「風の谷のナウシカ」以来すべての宮崎作品に関わり、ともに世界観を築き上げてきた久石譲。また主題歌には松任谷由実のファーストアルバム(荒井由実名義)の中の名曲「ひこうき雲」に決まった。
世界を席巻した「もののけ姫」から16年。
宮崎駿の待望の最新作は、閉塞感が増し、時代が破滅に向かって突き進む時代の中で自分の夢に忠実にまっすぐ進んだ人物を描いた物語である。
僕はただ、美しいヒコーキを作りたかった―。
ストーリー
かつて、日本で戦争があった。大正から昭和へ、1920年代の日本は、不景気と貧乏、病気、そして大震災と、まことに生きるのに辛い時代だった。そして、日本は戦争へ突入していった。当日の若者たちは、そんな時代をどう生きたのか? イタリアのカプローニへの時空を超えた尊敬と友情、後に神話と化した零戦の誕生、薄幸の少女菜穂子との出会いと別れ。 この映画は、実在の人物、堀越二郎の半生を描く―。堀越二郎と堀辰雄に敬意を込めて。生きねば。
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